我々部品を作成する職人として、鉄の熱膨張は避けられない課題です。そのメカニズムと影響を理解し、適切な対策を講じることで、理解が深まります。この記事では、鋼製のリングゲージの熱膨張に関する理論値と、実験データに基づいた結果を見てみます。
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実測値で自動計算機を使いたい方↓↓
熱膨張: 基礎知識
熱膨張とは: 製品が熱で膨張する性質
温度変化に伴い、物質の体積や長さが増加または減少する現象です。
熱膨張係数(α): 物体の膨張しやすさを表す指標
温度変化に対する膨張の度合いを示す指標です。
熱膨張量の求め方:(公式)
熱膨張によって長さ変化量 ΔL を計算するには、以下の式を用います。
ΔL = L₀ × α × ΔT
- ΔL: 長さ変化量 (mm)
- L₀: 初期長さ (mm)
- α: 熱膨張係数 (℃⁻¹)
- ΔT: 温度変化量 (℃)
要するに、長さ変化量ΔLは長さL₀と熱膨張係数(α)と温度変化量(ΔT)の積で求めることが出来ます。
※上記の式は、製品が均一な温度に達していることを前提としています。
製品の温度が非均一な場合、熱膨張によって歪みが発生する可能性があります。
特に加工した後は、切削した部分の温度が相対的に高いのであまり参考になりませんでした。放射温度計を使い実証済み!
温度変化による熱膨張を考える
1. 方向性
熱膨張は、材料のすべての方向に等しく起こります。そのため、リングの外径と内径の変化量は、それぞれの方向における熱膨張量を考慮する必要があります。
リングの外径と内径ではそれぞれの径寸法で計算する必要があります。
2. 応力
切削加工や溶接などによって内部応力が発生している場合があります。内部応力は熱膨張の影響を受け、さらに熱膨張によって内部応力が変化します。
熱膨張の影響: 実験データ考察前の前提条件
式を使い膨張量を求めることはだれでも出来ます。実際に工場で働いている職人が
気になるであろう、上の熱膨張量の計算式を使い理論値と実験値の実測値の結果を検証してみます
検証は3種類のリングゲージを使って調査しました。
しかし、以下の点に留意する必要があります
実験条件
- 材料:リングゲージ
- 測定方法:3点マイクロメーターによる内径測定
- 温度:条件①30度超えの室温に3種類のリングゲージを1日置きと3種類の3点マイクロを1日置き、
室温になじませる
条件②20度位の室温に上記の3種類のリングゲージを1日置き、①の条件の3点マイクロで測定
※リングゲージの寸法変化を測定したいので、3点マイクロは30度超えの室温で固定
温度変化から計算した理論値
上記の熱膨張量の計算式を使って計算できます。ただし、以下の点に注意する必要があります。
方向性
熱膨張は、材料のすべての方向にほぼ等しく起こります。そのため、リングの変化量は、それぞれの方向における熱膨張量を考慮する必要があります。
※今回は35℃から20℃に変化するのでリングゲージ内径は縮みます。
ΔL = L₀ × α × ΔT
検証は3種類の①φ49.998②φ70.012③φ90.000のリングゲージを使用しました。
①φ49.998リングゲージの35℃→20℃の理論値
公式に代入すると
ΔL = 49.998× 10.6 × 10^-6×15
=0.00819mm
(理論値)室温が35℃から20℃に変化すると0.00819mm変化します
②φ70.012リングゲージの35℃→20℃の理論値
公式に代入すると
ΔL =70.012× 10.6 × 10^-6×15
=0.01147mm
(理論値)室温が35℃から20℃に変化すると0.01147mm変化します
③φ90.000リングゲージの35℃→20℃の理論値
公式に代入すると
ΔL = 90.000× 10.6 × 10^-6×15
=0.01474mm
(理論値)室温が35℃から20℃に変化すると0.01474mm変化します
温度変化による実験結果
①φ49.998リングゲージの35℃→20℃の実験値
φ49.998のリングゲージを室温35.3°で基点合わせ
※リングゲージと3点マイクロを室温35.3°で数時間なじませました
②φ70.012リングゲージの35℃→20℃の実験値
φ70.012のリングゲージを室温35.3°で基点合わせ
※リングゲージと3点マイクロを室温35.3°で数時間なじませました
③φ90.000リングゲージの35℃→20℃の実験値
φ90.000のリングゲージを室温35.3°で基点合わせ
※リングゲージと3点マイクロを室温35.3°で数時間なじませました
理論値(公式から算出):35℃→20℃
温度 | 外径 | 寸法変化(理論値) |
---|---|---|
20℃ | 49.98981mm | -0.00819mm |
35℃ | 49.998mm |
温度 | 外径 | 寸法変化(理論値) |
---|---|---|
20℃ | 70.00053mm | -0.01147mm |
35℃ | 70.012mm |
温度 | 外径 | 寸法変化(理論値) |
---|---|---|
20℃ | 89.990mm | -0.01474mm |
35℃ | 90.00mm |
実験値:35℃→20℃
温度 | 外径 | 寸法変化(実測値) |
---|---|---|
20℃ | 49.985mm | -0.013mm |
35℃ | 49.998mm |
温度 | 外径 | 寸法変化(実測値) |
---|---|---|
20℃ | 70.005mm | -0.007mm |
35℃ | 70.012mm |
温度 | 外径 | 寸法変化(実測値) |
---|---|---|
20℃ | 89.990mm | -0.010mm |
35℃ | 90.000mm |
考察
35℃から20℃に温度変化した際、このような結果になりました。
厳密に実験した訳ではないのですが、おおよその目安にはなると思いました。
旋盤加工による熱膨張の影響と対策
影響
- 加工寸法の誤差: 温度上昇による寸法の増減は、図面通りの寸法に仕上がらない可能性があります。
- 加工後の歪み: 材料が歪み、製品の精度が低下します。
対策
- 切削条件の調整: 切削速度の低減、送りの低減、切削深さの3つの低減を通じて切削熱の発生を抑えます。
- クーラントの活用: 切削熱を効率的に除去し、工具の摩耗と切削抵抗を低減します。
- 加工後の熱処理: 焼きなましや応力除去加工を施し、内部応力を除去し歪みを抑制します。
低温で応力を除去する『応力除去焼なまし』は、削る量をできるだけ減らすため、荒加工後にする場合も有ります。
熱膨張量の自動計算機能
熱膨張係数は
〇×10^-6/℃の丸の部分の数字を代入してください。
その他は半角入力
- ΔL: 長さ変化量 (mm)
- L₀: 初期長さ (mm)
- α: 熱膨張係数 (℃⁻¹)
- ΔT: 温度変化量 (℃)
材料名 | 炭素量(%) | 熱膨張係数 (x10^-6/℃) | 備考 |
S50C以下 | 0.50以下 | 12.18 | 炭素鋼 |
S55C | 0.50~0.60 | 11.7 | 炭素鋼 |
SKD11 | – | 11.7 | 工具鋼 |
鋳鉄 | – | 10.5 | |
SUS304 | 18.0~20.0 | 17.3 | オーステナイト系ステンレス鋼 |
SUS316 | 16.0~18.0 | 16 | オーステナイト系ステンレス鋼 |
SUS410 | 11.5~13.5 | 9.9 | マルテンサイト系ステンレス鋼 |
SUS430 | 16.0~18.0 | 10.4 | フェライト系ステンレス鋼 |
純銅 | – | 16.5 | |
銅 | – | 17.7 | |
砲金 | – | 18 | |
黄銅 | – | 18.8 | |
アルミ製銅 | – | 16.5 | |
アルミ | – | 23.9 | |
ニッケル | – | 0.9 |
まとめ
思っていたよりも理論値と実験値は近しい値になりました。室温が異常に高いときや低い時には、個人的には一定数、参考になるような結果でした。時間あるときに違うサイズ、材質などで、データをとっていき、精度を上げていきたいと思いました。今回の反省点は、20℃で基点を合わせたほうのが読者には解りやすかったのかなと、反省いたすところです。
もっと良い実験法等ございましたら、コメントお待ちしております。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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