~精密な加工技術と豊富な経験を有する
稀有な人材の現状と未来への挑戦~
1. はじめに:日本の基幹産業を支える職人たちの存在意義
大物・長尺旋盤は、風力発電設備の風車、船舶の船体、建設機械のクレーン、自動車、鉄鋼の設備など、日本の基幹産業を支える重要な部品加工に使用される工程です。これらの大型ワークを精密に加工する技術は、高度な知識と豊富な経験を必要とする専門性の高い技術であり、それを操る大物・長尺旋盤技術者は、まさに「職人」と呼ぶにふさわしい存在です。私の周りのいわゆる「匠」と呼ばれる職人は60歳以上の人が多い印象です。
また、私の考えではこの分野(大物、長尺旋盤)における業界は参入企業も出にくく、徐々にブルーオーシャンの状態になりつつあります。人材の面でも、新たな人材が業界で働く際には、その専門知識や経験が求められ、確かな技術力を持つ者が市場で重宝されます。そのため、大物・長尺旋盤技術者としてのキャリアは、安定性だけでなく、成長性と競争力も兼ね備えています。なぜ大物旋盤かと言うと、近年における中国、ベトナム、インドといった新興国の安い人件費で、巨額の資本を使い最新の機械で安く製品を作ってくる可能性が高いと考えています。そこで輸送費のかかる大物製品は小物製品よりも圧倒的に価格競争になりにくいと言えます。
2. 職人たちの減少:深刻化する人材不足と日本のものづくりへの影響
2020年頃から明らかに生産年齢人口(15歳~64歳)が減少傾向(図-1)になります。これを変えることは無理です。この状況は、日本のものづくりの根幹を支える技術継承の断絶、大型ワーク加工の困難化、国際競争力の低下など、様々な問題を引き起こす可能性があります。
3. 職人たちの減少:原因を徹底解剖
大物・長尺旋盤技術者の減少には、以下のような2つの原因が考えられます。
- 少子高齢化:熟練技術者の減少と知識・経験の継承難: 旋盤士は知識を持った人から教えてもらうことが、ほぼ必須です。私はほとんど独学で学んだので、ようやく一人でもこなせるようになってきました。しかし教えてもらった方のが効率も安全面でみても有利なのは間違いありません。まさに今は、職人と呼ばれる人が多い、現役の団塊の世代に教えてもらうことが、自分への一番のスキルアップにつながります。
- 熟練技術者の減少と知識・経験の継承難:未来への懸念
少子高齢化の影響は、旋盤業界にも深刻に影を落としています。熟練技術者の減少と知識・経験の継承難は、業界全体の競争力低下に繋がりかねない課題です。
旋盤技術は、単なる知識や経験の蓄積ではなく、師匠から弟子へと受け継がれてきた「技」です。独学で習得することも可能ですが、効率や安全面において、師匠から学ぶことの重要性は明らかです。
現在、多くの企業が団塊世代の退職という大きな節目を迎えています。彼らは長年の経験で培った知識と技術を有しており、まさに「匠」と呼ぶにふさわしい存在です
今こそ、彼らから学ぶことで、次世代の技術者を育成し、業界全体の未来を担保していくことが重要です。
3Kのイメージ:誤解と偏見による職業選択の回避
確かに、かつての工場は「きつい」「汚い」「危険」というイメージが強かったかもしれません。しかし、近年は製造業の技術革新や働き方改革により、工場環境は大きく改善されています。
具体的には以下のような改善が見られます。
- 「きつい」
- 空調設備の導入により、暑さや寒さの影響を受けにくくなった。
- 作業動線の改善、機械の自動化により、疲労軽減に努めている。
- 「汚い」
- 5S活動や清掃時間の徹底により、工場内は清潔に保たれている。
- 粉塵や油汚れ対策として、換気設備や洗浄設備が整備されている。
- 作業環境の改善により、作業着の汚れも軽減されている。
- 「危険」
- 安全設備の導入や安全教育の徹底により、事故発生率が昔よりも減少している。
- 作業手順の標準化や機械の安全装置により、作業中のリスクが低減されている。
- 健康管理体制の充実により、労働者の健康リスクを軽減している。
IT企業のような恵まれた環境ではないかもしれませんが、頭と体をフルに使って難しい仕事をこなした時の充実感は、IT企業にも引けをとりません。
さらに、製造業はものづくりの喜びを直接感じられる仕事であり、社会貢献度も高い職業です。近年は、キャリアパスも明確化され、技術力や経験を積むことで、高収入を得られるチャンスも多くあります。
3Kのイメージは誤解や偏見に基づいている場合が多く、実際に働いてみると、想像以上に魅力的な仕事であることに気づく人も少なくありません。
ぜひ、実際に工場見学やインターンシップに参加して、現代の工場環境を自分の目で確かめてみてください。
大物・長尺旋盤技術者不足は、日本のものづくりの未来を脅かす深刻な問題です。
しかし、技術習得の壁、待遇やキャリアパス、後継者育成などの課題に対して、様々な取り組みが進められています。
これらの取り組みによって、大物・長尺旋盤技術者という職業の魅力が向上し、若者が積極的にこの職業を目指すようになれば、日本のものづくりの未来は明るくなります。
大物・長尺旋盤技術者になることは、決して簡単ではありません。しかし、努力すれば必ず報われる、やりがいのある職業です。
日本のものづくりの未来を担いたいという意欲のある若者にとって、大物・長尺旋盤技術者というキャリアは、大きなチャンスとなるでしょう。
4. 未来への挑戦:巨匠たちの技と知識を受け継ぐ
技術習得には時間がかかりますが、努力すれば必ず習得できるというのが、この職業の魅力の一つです。
強い意志と継続的な努力が必要となります。
5. 旋盤工、フライス工の平均給料2010~2019年から考える考察
厚生労働省が発表しているデータをもとに算出したものを表とグラフに示します。NC旋盤、マシニングも含まれているかと思われます。
全国平均:
平均年齢 | 平均勤続年数 | 残業込み(月) | 基本給(月) | 給料 | ボーナス | 残業込み給料 | |
2019年旋盤工 | 40.4 | 13.3 | 31.19 | 26.31 | 398.32 | 82.6 | 456.88 |
2019年フライス工 | 41.5 | 12.1 | 30.79 | 25.57 | 372.94 | 66.1 | 435.58 |
2010年旋盤工 | 39.7 | 12.3 | 30.85 | 25.17 | 359.05 | 57.01 | 427.21 |
2010年フライス工 | 39.5 | 12.1 | 29.68 | 24.66 | 332.52 | 36.6 | 392.76 |
出典:厚生労働省の資料をもとに算出
2010年と2019年の旋盤技術者の平均給与は以下の通りです。
- 2010年: 約359万円
- 2019年: 約398万円
2010年と2019年のフライス技術者の平均給与は以下の通りです。
- 2010年: 約333万円
- 2019年: 約373万円
考察:
旋盤工とフライス工を比べると、旋盤工の方が給料、ボーナスが高いことから旋盤技術者の方が人手不足と考えられます。
旋盤工とフライス工の平均年齢が上昇していることから、高齢化が進んでおり、人材不足が懸念される。
大企業から中小企業まで幅広い選択肢があり、将来的には独立開業も可能です。
6. 技術向上のためのヒント(給料アップを目指す)
技術向上には、以下の2つの方法もあります。
6-1. 多くの工場を見学する
色々な工場を見学することで、様々な技術やノウハウに触れることができます。
- 新しい技術やアイデアを発見
- 自身の技術と比較し、改善点を見つける
- 業界全体の動向を把握
6-2. 転職を視野に入れる
転職は、新しい環境でスキルを磨いたり、キャリアアップしたりするチャンスです。
- 異なる技術や仕事のやり方を学ぶ
- 自分の価値を再認識
- より良い待遇を得られる可能性
一つの職場だけに留まらず、積極的に外の世界と触れることで、技術者として大きく成長することができます。
技術を磨けば、給料アップにもつながります。
技術向上は、自身のキャリアアップだけでなく、企業にとっても大きなメリットとなります。
企業は、技術者のスキルアップを支援することで、競争力を高めることができます。
7. 転職希望者への道しるべ:それぞれの企業の強みを見るべき
大物・長尺旋盤技術者への転職を希望する方は、就職する企業を知る必要があります。
7-1. 求められている必要なスキルと経験:
旋盤に関する知識・技術、図面の見方、切削条件の設定、プログラムを作れるか、どの制御装置の機械を使っているかなど
7-2. 魅力的な企業の見つけ方:
1台当たりの機械単価から読み解く企業の立ち位置
1台当たりの機械単価が示すもの
1台当たりの機械単価は、企業の規模、事業内容、技術力などを反映した重要な指標です。単価が高いほど、高度な技術や設備を必要とする事業を展開している可能性が高いと言えます。
コストアップによる価格転嫁できない企業は、賃上げのハードル高いです。
私個人的には量産仕事よりも単品仕事やっている企業の方がスキルアップにつながると思っております。量産仕事も難しいこともありますが、単品仕事の方が単純に図面を見る機会も、難しい仕事にもあたる確率が高いからです
まとめ
1. 大物・長尺旋盤技術者:日本のものづくり
高度な技術と豊富な経験を必要とする大物・長尺旋盤技術者は、日本の基幹産業を支える重要な存在です。しかし、高齢化や人材不足により、その数は減少傾向にあります。
2. 減少する技術者:深刻化する問題
熟練技術者の減少は、技術継承の断絶や国際競争力の低下など、日本のものづくりに深刻な影響を与えます。
3. 減少の原因:誤解と課題
3Kのイメージや待遇、キャリアパスの不明確さなどが、若者がこの職業を選択しない理由です。
4. 未来への挑戦:技術継承と魅力向上
技術習得の壁を克服するための取り組みや、待遇改善、キャリアパス明確化など、業界全体の努力が必要です。
5. 旋盤技術者:高い給与と安定性
旋盤技術者は、安定した雇用を得られる魅力的な職業です。
6. 技術向上:成長とキャリアアップ
多くの工場見学や転職など、積極的に外の世界と触れることで、技術者として大きく成長することができます。
7. 転職:企業選びのポイント
求めるスキルや経験を理解し、1台当たりの機械単価などから企業の立ち位置を把握することで、自分に合った企業を見つけることができます。
日本のものづくりの未来を担う大物・長尺旋盤技術者。
技術継承と魅力向上への取り組みが、未来への鍵となります。
挑戦する若者たちへ、熱いエールを送ります。
私の経験と知識のご紹介↓↓
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